胃のうっ滞は、ウサギにおいて日常的によく出会う問題のひとつです。
ただし、特にそれを何度も繰り返している場合、単なる一時的な消化器トラブルとして扱うだけでは不十分なことがあります。
胃のうっ滞は、原因そのものというより、さまざまな問題の結果として起きていることがあるからです。
食事内容、加齢、慢性疼痛、全身状態の変化、そして他の慢性疾患。そうした背景がある中で、消化管の動きが不安定になり、結果としてうっ滞を繰り返していることがあります。
またその中でも、臨床的に非常に重要なのが歯科疾患です。ただしここでも大切なのは、歯が重要だからといって、歯だけ見ればよいわけではない、ということです。
今回は胃のうっ滞の概要と、発生する背景についてまずは解説し、原因として非常に重要な(歯科疾患)についてお伝えしたいと思います。
1、胃のうっ滞の概要
胃のうっ滞とは、病名そのものを指す言葉ではなく、胃の中の食渣のうっ滞による一連の消化器症状のことを言います。胃のなかで飲み込んだ被毛が毛球となりうっ滞を起こすため(毛球症)とも呼ばれることもありますが、現在ではどちらかというと<胃のうっ滞>もしくは<消化管うっ滞>と呼ばれることが一般的となっています。
原因としては、実際に何かが詰まる場合と消化管の動きそのものが低下する場合があり、両者が重なって悪化することも有ります。
うさぎでの胃のうっ滞を考える上で最も重要な点は、その胃の解剖学的構造から嘔吐することができないという点です。
何かが胃の出口などで詰まってしまうことにより、液体やドロドロになった食渣により胃は膨張します。我々ヒトや犬や猫では、嘔吐が起こる事で胃の内容物が排出され胃の圧力を下げることができるのですが、うさぎでは嘔吐ができないため、閉塞が改善し腸に向かって流れてくれるか、流れない場合はそのままどんどん胃はパンパンに膨らんでしまい状態悪化、の2択しかありません。
胃がパンパンに膨らむと胃壁は風船のように薄く引き延ばされることとなります。胃の壁の中には、血管が走行しています。結果的にその血管も引き延ばされることとなり、血液の流れも極端に悪くなります。全身の血管と胃壁の血管は繋がっているため一部分の循環が障害されることや、内臓痛によるカテコールアミンなどの血管反射、そして脱水による血液量の減少など複数の影響を受けます。
消化管の問題とはいえ、全身の血液循環に大きな影響が影響が出やすいのがウサギのこの疾患の特徴です。
2、胃のうっ滞は、『状態』であって、原因が別にあることがあります
胃のうっ滞は、ただ単に毛をたくさん飲み込む事で毛球ができてしまうような単純なものから、食事内容によるもの、慢性的な水分の不足、運動不足、慢性的な胃炎、そしてストレス、そして基礎疾患による消化管への影響など、そのうちのひとつもしくは複数が原因となり発生します。
その都度の治療で改善したとしても、その後も定期的にうっ滞を繰り返してしまう場合には、その背景因子を考えることが大切です。
前述した通り、ウサギにとっての消化管うっ滞は、全身への負荷が高く、運が悪ければ命を脅かしかねない問題だからです。
3、繰り返す場合は、消化管以外も含めて見る必要があります
消化管うっ滞は、換毛期の被毛の経口摂取、食事内容だけではなく、慢性疼痛や、肝疾患、腎疾患、循環器や呼吸器などの消化管以外の臓器の疾患も関与していることがあります。
うさぎの消化管は、いろいろなことによる影響を受けやすいという特徴を持っています。
未だよくわかっていない点も多く、非常に奥が深い臓器です。
そうした背景因子の中でも、うさぎで特に頻度が高く、しかも消化器に直結しやすいのが歯科疾患です。
4、歯科疾患(不正咬合)との関連
うさぎの歯は、歯根が生きている限り伸び続ける常生歯です。
本来は、牧草をしっかり食べて長時間咀嚼することで歯が適切に摩耗し、正常な歯の長さと咬み合わせのポイントが保たれています。
しかし、草を十分量食べない状態が続くと歯の摩耗不全が起こり、不正咬合につながります。
一般的によく知られているのが、口腔内での問題、すなわち歯の一部が鋭利に尖り、上顎では頬粘膜、下顎では舌を傷つけやすくなり、傷ついた粘膜の痛みが出るパターンです。
これは尖っている部位を適切に削ってあげれば症状は解決するため、短期的な問題と言えるかもしれません。
もう一つは、摩耗が起こらないことで臼歯の長さが伸長し、歯根が顎の骨の奥にめり込んでくる問題です。
これは様々な歯以外の慢性的な問題(鼻腔、眼、中耳、肺、消化器など)へと繋がることがあります(過去記事参照)。
すぐに急性の症状が起こるというよりも、時間をかけて慢性的に問題が生じてくるため、これは不正咬合による長期的な体への影響と考えられます。
牧草の選択としては、歯が健康なうさぎさんであれば、しっかりと歯を使って咀嚼させるために1番刈りのチモシーがその代表例であり、やはりおすすめです。
しかしながら、歯の噛み合わせがずれてしまってきているうさぎさんでは、若干対応が変わってくることをご存知でしょうか?
1番刈りは、歯がしっかりと正しいポイントで噛み合ってくれて初めて問題なく食べることができる牧草です。逆にいうと、噛み合わせが悪くなっている子にとっては、『食べるのには若干ハードルが高い牧草』であるとも言えます。
噛み合わせが悪くなることで起こる弊害にはふたつあります。
歯の噛み合わせが悪くなる事で、食べにくくなる事で摂取量が落ちる事がまず1点目、この場合は繊維質の摂取量が落ちてくることとなります。2点目は、うまく噛み合っていないため牧草を細かくすりつぶす事ができず、荒くぶつ切りとなった牧草が胃のなかへダイレクトに入ってくる事です。消化されるまでの時間が長くかかる事で毛球を形成しやすくなり、また硬い牧草の胃の内壁への物理的な小さな損傷も予想されます。
ウサギでは、このように噛み合わせの問題で消化管が反応しやすいことが知られています。
すでに咬み合わせが崩れている子では、牧草の選び方も含め全体の食餌内容を調整する必要性があります。
一番刈りを与えていれば、なんとなく安心と感じてしまいがちですが、以前より牧草の減りが少なくなってきた、やわらい部分のみ選んで食べている、うんちの大きさが若かった頃より少しだけ小さいなど、牧草の食べ方に変化が生じてきたら、画像診断による歯の評価を行うことをお勧めしています。
ひとつめの画像 上顎と下顎がきちんとした位置で噛み合っている例

ふたつめの画像 噛み合っているポイントが上にズレている例

もう一つお伝えしておきたいことがあります。
不正咬合がすでに起こっていたとしても、決してなにもできないわけではありません。
今の歯の状態によって食餌の内容のバランスを整えていくことや、現在併発している病気や状態を治療により落ち着かせる事で、のちに大きな問題が起こる可能性を少なくしたり、進行を遅らせたりすることはもちろん可能です。
噛み合わせが悪くなっていても、見た目には元気で食欲低下も目立たないことが少なくありません。
しかしながら、定期的に消化管うっ滞を繰り返している原因のひとつとして、不正咬合が隠れているかもしれない、というお話を今回ご紹介させていただきました。
もし、
·胃のうっ滞を繰り返している
·牧草の食べ方が変わってきている
·うんちの大きさや量に変化がある
といった場合には、歯の問題を含めた全体的な状態が関係している可能性があります。
当院では、うさぎの歯科疾患だけでなく、消化器や全身状態とのつながりも含めて診察を行っています。
当院のうさぎの診療については、以下のページをご覧ください。

